春日クリニックの婦人健診・レディースドック

乳がんが増えています ー乳がん検診のすすめー

 

医療法入社団 同友会

春日クリニック 人間ドック・健診センター

センター長 吉本 貴宜 医師

乳がん検診のすすめ

日本人に増えている乳がん

日本では乳がんにかかる女性が増え続けています。今では年間約4万人が乳がんにかかると推定されていて、女性のかかる疾患では第1位(図1)です。また亡くなる方も2008年には1万1千人を超え、ここ50年間で7倍近くに増えています。死亡原因として女性の全年齢層では4位ですが、30歳から64歳の壮年層に限れば1位になっています(図2)。

「乳がん年齢」は20代から80代まで?

また年代別に見ても、幅広い年代層で乳がんによる死亡率が昔と比べて上昇しています(図3)。グラフにあるように40代で発見されるケースが最も多いのですか、近年では70代、80代の女性も増え、また、20代、30代の若い世代にまで広がっています。20代だからといって油断はできず、若いうちから関心を持つ事が大切です。女性であれば誰でもかかると思っておいた方がいいのですが、初潮年齢が早い、出産経験がない、閉経が遅い、飲酒量が多い、乳がんの家族がいるなどの人は他の人より気をつけた方がよいようです。

日本で乳がんが増えているわけ

30年前には日本人女性で生涯のうちに乳がんにかかるのは30人に1人と言われていたのですが、それが今では約9人に1人と言われるほど急速に増え続けている原因はなんでしょう。その背景にはライフスタイルの欧米化や価値観の変化があります。

 

乳がんには女性ホルモン(エストロゲン)が関わっていて、エストロゲンの分泌される期間が長いと乳がんのリスクが高まります。現代では食の欧米化で日本食の代わりに動物性たんばく質や脂肪を多くとる機会が増えた影響もあって、初潮年齢の低下や閉経年齢の上昇、閉経後の肥満が多く見られるようになっています。また人生観の変化で、30歳以上で未婚の人や高齢出産も増えています。こうした要因が重なって生涯を通じてエストロゲンに長く多くさらされてしまう状態になっている事が、乳がんの増加や年齢層の拡大に繋がっていると考えられています。

検診が普及した欧米では乳がんの死亡率は減っています

実は日本は、先進国では唯一乳がんの死亡率が上がり続けている国です。乳がんはもともと欧米で多い病気でアメリカ人女性の約8人に1人が発症すると言われていますが、近年欧米では逆に死亡率が減少しています。この欧米と日本の違いはどこからくるのでしょう?

死亡率の高かった欧米諸国では、これまで国を挙げて乳がんに対する啓発と検診を普及させ早期発見にカをいれてきました。乳がんは早期に発見し治療を行えば9割以上は治ります。さらに早期で見つけることによって乳房を温存する治療法を選択肢に加えることができるため、生活の質(QOL)の向上にも役立ちます。

日本でも2006年に厚生労働省から「40歳以上の女性に対し2年に1度視触診及びマンモグラフィ併用検診を行う」指針が通知され、乳がん検診受診率も40歳以上で徐々に増えてはいますが、それでもまだ20%程度です。70%を超える欧米諸国と比べると、日本が乳がん検診においてかなりの後進国であることがわかります(図4)。この欧米と日本との受診率の差が、死亡率の増減に現れていると考えられています。

これからの乳がん検診で必要な検査は?

乳がんの一次検診は一般的に「視触診」、「乳房X線(マンモグラフィ)」、「超音波」の単独検査か、それらの組み合わせで行われていますが、検診の中心はこれまで長く行われてきた視触診から、乳がんによる死亡率減少効果が証明されているマンモグラフィや、その可能性が期待されている超音波検査に移りつつあります(図5)。

 

その理由として、実は最近になって視触診だけでは乳がんの死亡率減少効果が十分ではない事が分かってきているということがあります。マンモグラフィで発見される乳がんが成長してしこりとして触れるようになるまで1.3~2.4年かかるという報告もあり、また中にはしこりを作らないタイプの乳がんもあるとされています。意外に思われるかもしれませんが、熟練した医師の手による触診であっても、ある程度大きくなったがんは見つけられても「早期発見」には十分とは言えないのです。

 

先ほどの図4は視触診のみの検診も含めた受診率ですが、50歳~69歳のマンモグラフィを伴う乳がん検診の受診率でみるとフランス88.5%、アメリカ72.5%、イギリス70.1%であるのに対し、日本の受診率はわずか5.6%と、非常に低い水準である事が指摘されています(OECDヘルスデータ2008年版)。

マンモグラフィや乳房超音波検査を受けましょう

アメリカやイギリスではマンモグラフィを取り入れた集団検診が行われるようになった結果、50歳以上の女性の乳がん死亡率が約25%も減少したとされています。また超音波検査でも、若い方を中心に乳がんの発見率が17%増加したとする海外の報告もあります。乳がんを早期に発見するために、これからの検診では視触診に加えてマンモグラフィや超音波検査を受けられることを是非おすすめします。

 

マンモグラフィと超音波検査には図5にあるとおり一長一短があって、どちらが優れているとは一慨には言えません。両方を受けるのが一番よいのですが、乳腺密度の違いなどからどちらかといえば若いうちは超音波検査が、年齢を重ねるにつれてマンモグラフィが適しているとされています。

図5

マンモグラフィ:

乳房をプラスチックの板で挟んで平たくして、乳房専用のX線装置で乳房全体を撮影します。

○視触診より早期の乳がんを発見しやすい

○しこりがなくても石灰化でがんを見つけられる

○死亡率を減少させる効果が証明されている

○以前に撮った写真との比較がしやすい

●若い人や乳腺密度の高い人はわかりにくい

●挟む時に多少の痛みを伴うことがある

●わずかながらX線による被ばくがある

(本人の健康に重大な影響を及ぼすことはない)

乳房超音波検査:

胸にゼリーを塗って、プローブと呼ばれる超音波センサーをあてて観察します。

○視触診より早期の乳がんを発見しやすい

○乳腺の発達した若い乳房でも見やすい

○針を刺したり放射線や薬を使わないので身体への負担が軽い

●検査を行う医師・技師の技量に左右される

●死亡率減少効果については現在検証中である

検診で精密検査が必要と言われたら

もちろん、どんな専門医でも検診の結果だけで「間違いない」とは言えません。追加でMRIを使った検査や、乳がんの疑いがあるときは乳腺組織を採取して「細胞診」または「組織診」による直接診断が必要となることもあります。結果的に良性のしこりである事が分かる事も多く、現状では検診で精密検査を指示された人の中で実際にがんが見つかるのは50人に1人程度であり、決して多くはありません。精密検査が必要と言われても心配し過ぎずにまずは落ち着いて、でも速やかに二次検査を受けるようにしましょう。